いちゃもんスローライフ

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有終の美

樹木と語り合うような特別な能力はないが、樹木は予知能力を備えているのではないかと最初に感じたのは十年くらい前のことだった。実家の庭を造り変えることになって造園業の社長さんと色々と事前に打ち合わて樹齢八十年ほどの梨の木が邪魔になっていたことから別所に移さずに切ってしまうか譲ってしまうとかの話になったようだ。その梨の木の印象はクルマの通りのぎりぎりに立っていて枝ぶりも悪くいつも貧弱な実を数個つけるだけで例外なくそれは何十年も続いていた。庭全体が小さな畑の続きにあって誰かが施肥をするとか手入れをするのを見たこともないし、庭木にボールを落として枝が折れても下手な剪定で不格好にしたとしても咎められなかった。そんな調子だから梨の木が無くなってもいいよね、という感じだった。ところが私がその梨の木を思いのほか覚えているのには訳があった。造園計画が持ち上がった直前の夏に梨の木は突然狂ったように実をつけた。これには家人も一同驚いて「なんだろこんなに実をつけちゃって、今までで一番だよね」と口々に言った。その数か月後にその梨の木とお別れすることになったものだから申し訳ない気持ちになっていた。私は梨の木に向かって「長い間ありがとう、ずっと忘れないよ」と話し掛け樹木を撫でた。同じようなことが昨年もあった。こちらの庭に大きな花桃があって毎年ピンクの花を咲かせてくれていた。しかし虫による浸食が進んできていて枯れないか心配だった。早いうちに一度は思い切って切り詰め防虫対策を施そうと数年前から考えていた。今年はいよいよだなと思った矢先にこれまた今まで見たこともないほど沢山の桃の実をつけた。しかもかじってみると美味しいのに驚いた。花を観賞するだけの桃の木だと思っていたから実が食用になると考えてなかった。切り詰める前に果実を提供してくれて皆を喜ばせ、なお「覚えていてね」と語りかけられているように感じた。収穫した実はミカン箱にてんこ盛りになるほどだった。青梅の加工経験から、桃も日をおかずに硬い実から種を外しコンポートやジャムなどを作り続けた。結果それは香りも味も良くて家族に大人気だった。そして今年、梅の木は二本あるが交替で一年おきに一本だけ豊作になる。今のところ同時に豊作になりそうな様子で大風が続けば落果するだろうが今年は例年とは様子が変だ。抗菌作用の強い梅、これが必要な年になるからいっぱいなったりして……などと思いたくないが考えてしまった。杞憂であってほしいものだ。

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